感動経営学通信 第11号
                                     
あなたの中にある英雄は?
   
歴史を学ぶ際、英雄に関する文献を手にする経営者は多い。

日本の英雄といえば豊臣秀吉、中国では劉備玄徳、西洋においては、アレクサンダー大王、ジュリアス・シーザー、ナポレオン・ボナパルトを思い浮かべるかもしれない。
彼ら英雄たちのエピソードは伝説となり伝記となって今も我々はその活躍を知ることができる。彼らの物語から何を学べるのか。難しいことを考えなくとも、彼らから熱い想いや勇気をもらえるはずだ。経営者はそのような話が大好きである。
不況、不況といわれている昨今、このような大変な時代を如何に生き抜いていくかというテーマについて一度は考えたことがあるだろう。人生を自在に生きていく知恵はないものかと探している人もいるだろう。

中国に『菜根譚(さいこんたん)』という書物がある。今から約400年前にできたといわれており、洪自誠(こうじせい)という人物の著である。
この中には生きるための原理原則といえるような短文が数多く収録されており、先人の知恵を吸収するにはうってつけだ。 この中から「英雄の条件」について記されている一文を紹介しようと思う。
小処(しょうしょ)にも滲漏(しんろう)せず、暗中にも欺隠(きいん)せず、末路にも怠荒(たいこう)せず。わずかに是れ個の真正の英雄なり。

小さなことでもおざなりにすることなく、人が見ていないからといってごまかしたり隠したりせず、失敗したり失望しそうな時にも怠けたりやけになったりはしない。そのような人物こそが正真正銘の英雄なのだという。
真の英雄は粗雑ではない。大きなことを成し遂げる上で、小さなことにも細心の注意を払って抜け目がない。特に悪に関しては、どんな小さなことでもしてはならないと劉備玄徳はその子に語っているし、東洋の帝王学の代表作である『貞観政要(じょうがんせいよう)』にも次のように書かれているので抜粋意訳する。

近ごろ、朝廷で政務を決裁するときに、時々、法令違反に気付くことがある。この程度のことは小事だとして、あえて見逃しているのであろうが、およそ天下の大事はすべてこのような小事に起因しているのだ。小事だといって捨てておけば、大事に至ったときには手のつけようがない。国家が危機に陥るのも、全てこれが原因である。
英雄たるものは小さなことにもきっちり目を配る。小さな問題が大きな問題になる前に食い止めようと努力する。自分の組織において、小さなことが大きな問題に発展することを理解している。そして小さな行いが、偉業につながることも知っている。真の英雄は運や偶然で大きなことを成し遂げるのではない。かの豊臣秀吉も、信長の部下のときから抜かりはなかった。長期的な視野で将来を見据えていた。

ただし、小事だけを行えといっているわけではない。三菱財閥創始者・岩崎弥太郎は「小事にあくせくするものは大事ならず」といっている。小事に手を抜かず、大事にも目を向けなければならない。
さらに英雄は人の見ていないところで、こそこそ悪事を働くようなこともしない。陰で人を裏切ったりするものは英雄ではなく梟雄(きょうゆう)である。


西郷隆盛はいう。

人を相手にせず、天を相手にせよ。天を相手にして、己れを尽くして人をとがめず、我が誠の足らざるを尋ぬべし。
人を相手にすることなく、天を相手にする。天はいつでも自分を見ているから、天に対して誠実に生きていかなければならないのだ。絶対的に自分と社会に対して誠意を尽くすつもりで一分の隙もあってはならないのであろう。
そして最後に、英雄とは末路にあってどのような行動をとるのか。数多(あまた)の英雄は、大変な時代に現れて、人々を幸福や平和へと導いてゆく。そもそも大変な時代だといって、ただ嘆いてばかりいるような者は、英雄となって現れたりはしないであろう。彼らは幾多の困難を乗り越えて出現する。未来に希望を見出し、来るべきチャンスに備えて自分を磨き続ける。やけになって投げ出してしまうような人物では成り得ないのが真の英雄である。

とにかく前向きに物事に取り組み、人々を勇気付けてゆく存在。企業でいえばまさにリーダーたる社長や経営陣がそうあってほしい。困難な世の中であり、右肩下がりの業績となろうとも、社員を鼓舞し、力強く前進しなければならない。
あなたの中にある英雄の素質を考えてみてほしい。決してこの条件は特別なものではないではないか。一瞬、一瞬において気を抜かず、口から出る言葉にも、表情にも、行動にも常に注意を怠らない姿勢。表裏のない姿勢。そしてどのような状況にあっても前向きに物事に取り組む姿勢があれば、たとえ小さくとも英雄になれるかもしれない。
あなたの中にある英雄の素質を呼び覚まそう。心構え一つで、あなたもみんなを照らす太陽のような英雄にきっとなれる。


まずは、お客様の立場になって考えることから始め、お客様を満足させるサービスを提供しなければならない。 お客様を満足させることができれば、必ず利益は後からついてくるのだ。